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今回は一穂ミチさんの『光のとこにいてね』の感想です。
一穂ミチさんの作品は、2021年に『スモールワールズ』吉川英治文学新人賞を受賞し、直木賞、本屋大賞では候補に入り注目を集めました。
作品
タイトル: 光のとこにいてね
著 者: 一穂 ミチ
発 行:文藝春秋
あらすじ
古びた団地の片隅で、結珠(ゆず)と果遠(かのん)は出会った。2人の少女は、裕福な家庭と母子家庭とで育ちは違ったが、歪んだ家庭環境という共通点があった。幼い2人は強く惹かれあい絆を結ぶが、ある事情で離れてしまう。四半世紀に渡り、別れと再会を繰り返した2人の成長と人生を描いた長編作。
感想
この作品は主人公 結珠と果遠の視点別に書かれているので、それぞれの気持ちを知ることができます。特に幼少期の2人の心情が印象的でした。とてもリアルでした。忘れていた懐かしい記憶がよみがえる感覚。第一章は幼い頃の自分の目を通して読むことができ、没入度が高かったです。
母親の事情に振り回され何度も引き離される2人ですが、その原因となる事情や「母と娘」の関係性も生々しくて、心が濁る。だからこそ2人の人生から目が離せず、読み進める手が止められませんでした。
はじめて
結珠は私立小学校へ通い毎日のように習い事に励みながらも、母親の顔色を窺い生きている。果遠は母親の強いこだわりや周囲への振る舞いが原因で、小学校にも団地にも友達がおらず孤独に生きていた。
そんな二人を強く結びつけたきっかけは ”はじめて”ではないかと思います。
幼い頃はたくさんの”はじめて”の経験がありますよね。
好奇心から自身で行動し得たり、テレビや視覚的にどこからか知ったりと多くのことを学びます。先生や両親から与えられる”はじめて”よりも、友達からもらう"はじめて"はまた違ったものであったような気がします。
彼女たちは、自分の生きているスペース(環境)では得られないような、望んでも手に入れられないと幼いながらに理解していた”何か”を与え合った。
喜びと自信
結珠は同年代の子供達よりも多くを知っていて、たくさんの事ができる子供だったと思います。果遠は逆に知らないことが多かったけれど、心が自由で強い子だった。
結珠がもらったはじめては「相手に教える喜び」
果遠がもらったはじめては「できる喜び(自信)」
時計が読めない果遠は、そんな自分を諦めていましたが、結珠に読み方を教わり変化します。二人が与え合ったものは、先の人生にも大きな影響を与え、勇気と支えになっていく。
私は果遠と自分を重ねました。自分に新しい世界を見せてくれた友達に対しては、今でも尊敬や憧れを抱いています。達成感とはまた違う、その瞬間に感じた喜びは忘れられません。
強く心に残るという点は、初恋と似た感覚なのかもしれません。
強さ
結珠との再会を強く願い努力してきた果遠ですが、母親のために結珠と過ごす時間を犠牲にします。
「お前は強くて優しいから、弱いお母ちゃんを捨てられない。捨てるのはいっつも弱い方なんだ」
思い返すと、私はこれまでいろんな場所から逃げる選択をしていたように思います。
自分が強ければ、離れずに今でも笑い合える関係にいたのかもしれないと思う人間が何人か頭に浮かびました。
光のとこにいてね
この「光のとこにいてね」というタイトルが好きです。作中に果遠が言います。
果遠の結珠に対する真っ直ぐ気持ちが詰まっている言葉です。
わたしがどんなに結珠ちゃんを支えにして、希望にして、結珠ちゃんに会いたかったか。その気持ちの重さを天秤に載せた時、反対側のお皿に「理屈」や「納得」を積んで釣り合いが取れなきゃだめなのかな。 果遠
抑えられない気持ち、原動力、そういった激しい感情には理屈が沿わないことの方が多い気がします。
理性的に考えても変えられない現状があるならば、少しだけ感情を優先することで未来を変えることが出来るのかもしれません。それは自分の望みに向かって歩くことにもなります。
自分に希望を与えてくれる、心を支えてくれる存在は大切ですね。例えば、推しとか。
関係性と未来
二人の関係性についてはよくわかりませんでした。大親友以上恋人未満。あるいは姉妹?とも言える。うん・・・言葉で表現できない。
ラストはうまく消化することができませんでした。
ワクワクする気持ちと、不安な気持ち。読者によって受け取り方が変わる終わり方だと思います。
初めてできた友達の記憶を思い出すことができた、良い読書時間でした。
今回の相棒
今日の香りは「シトラスウィンター」
これはストライクです。甘いようですっきりとした香り。